土佐和紙工芸村の上にある仁淀川を見渡せる高台に、土佐伝統の技を受け継ぐ手漉き和紙職人田村さんの工房があります。熟練の紙漉き職人兼お坊さんでもある田村寛さんと、紙漉きの魅力にひかれ大分から身一つで職人の世界に入った奥さんの奈緒子さん、とても明るくて気さくなご夫婦です。
細かいチェックを必要とする手漉き和紙の一連の工程は自然光がベストなので、朝日が昇ると同時に作業を開始して、日が沈んだら一日のお仕事を終えるのだそうです。自然の摂理に沿ったお仕事ですね。
手漉き和紙が完成するまでの道のりは長く、原料の状態から、 水につける→煮る→水洗い→さらし→ちり取り→たたく→こぶり…そしてようやく紙漉きとなり、→脱水→乾燥→断裁と続きます。
↓漉いた紙を簾桁(すけた)から剥がします。熟練の技です。
丸一日、ずっと同じ作業を続けるということも少なくないため、高い集中力はもちろん、
なにより根気が必要な和紙職人の世界。
元の原料のわずか4%の量しか完成した「和紙」とならない為、各工程で膨大な量の作業が待っています。
原料の付着物や堅い部分を取り除く「塵取り」は、地味ですが非常に重要な工程です。大きなバケツに入った煮終わった楮(こうぞ)を、水の中で選り分けながら点のようなゴミを取っていきます。長い時で3〜4日塵取りにかかりきりのこともあるそうですが、私は1時間させてもらっただけで肩・腰がパンパンになりました。でも、和紙作りに参加できてすごく楽しい時間でした。
紙漉きの工程では、漉き槽の中で原料の繊維を均一にしながら一枚一枚漉いて行きます。簾桁(すけた)の上で水が踊り、その音がとても心地よいのですが、紙の薄さによってまったく違う音とリズムになるそうです。無駄のない職人さんの動きそのものが美しく、薄い紙が次々と漉きあがっていきました。
漉かれた紙は、脱水した後一枚一枚丁寧に剥がして乾燥させます。今にも破れてしまいそうなくらい薄い紙が、不思議なくらい素直に剥がれ乾燥機の上に広がります。
その後刷毛でサッサッと空気を抜き、小さいシワも無い状態に仕上げます。このあたりは本当に神業という言葉がぴったりです。
出来上がった紙は色々な用途に使われます。書道やちぎり絵はもちろんですが、インテリアや雑貨に使われたり、美術品の修復など世界中から需要があります。日本の和紙−特に伊野で作られている薄い和紙は、世界に類を見ない品質の良さで有名です。和紙そのものの繊細な質感を生かして、そのままを飾ってもステキだと思います。
工程に余裕のあるときは、漉きあがった紙を染めて色々な模様を作る実験もされるそうで、面白い模様に染まった和紙が気持ち良さそうに風にゆれていました。これでウチワを作ったら素敵だろうな・・・。
伝統の技を守りながら、新しいモノを生み出す田村さんの工房。すぐ横を流れる小川のせせらぎと紙を漉くリズムカルな水の音が、高い天井の工房に響いて心地よく、居るだけで癒されました。
田村さん、貴重なお時間をいただいてありがとうございました。
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